エネルギー・素材メーカー企業に就職を検討している電気を学んでいる皆さんが、どのような設備の改善・改造に業務に今後携わるか、第五回目は、鉄鋼用電気炉についての改善業務を紹介したいと思います。(非鉄金属にも同じような電気炉が存在する場合があります。)
鉄鋼用電気炉は、建物や自動車の処分の際に生じた鉄くずをアーク放電の熱によって溶かし、鉄分のみを取り出すための設備です。以下にその設備の仕組みの図を示します。
電気炉の放電の発生のさせ方は、鉄くずに電極を触れさせる(極限まで近づける)ことで通電させ、その後、電極を引き上げることで放電を発生させます。放電は一度発生させると、空間の分子をイオン化させ、空間内の抵抗を低く維持するため、鉄くずの抵抗の変化のみに合わせた電圧制御が行われます。
電気炉は一回の鉄くずをアークで溶かしきるのに20~30MWhと大量の電力を消費します。鉄くずを早く溶かしきることで電力消費量を大きく削減できます。電力消費量を削減するための課題は、いくつかありますが、今回はそのうちの二つを紹介します。
一つ目は、電気炉内で鉄くずを溶かす過程で、温度が集中する部分ができてしまうという点です。電気炉で流がれる電流は大電流であり、周囲に大きな磁界を発生させます。電流が三相である場合、それぞれの電流から磁界が発生し互いに影響しあうこと(電磁力)で、アーク放電の放電ルートが変わります。これにより鉄くずの加熱範囲が特定の場所に集中してしまい、まだ溶けてない範囲の鉄くずに効率よく熱がいきわたらず、溶かすのに時間がかかってしまう問題があります。
二つ目は、いかに放電の長さを伸ばした状態で操業を継続するかという点です。電気炉の鉄くずを溶かす熱影響の大部分は、鉄くずの抵抗損失の熱ではなく、アーク放電側面から発生する4,000℃ほどの熱です。つまり、アーク放電が長くなるほど面積が大きくなり、より大きな熱で鉄くずを早く溶かせます。しかし、アーク放電は鉄くず部分の抵抗が急変することで、前述で説明した電磁力の影響関係が変わり、アーク放電の放電ルートが変わります。その際、アーク放電は長い状態であるほど、壁面などにぶつかり途切れてしまう問題があります。また、電気がよくわかる方はご存知かもしれませんが、鉄くず部分の抵抗が急変することで、本来、鉄くずに電力消費を集中させるつもりが、電極に熱を集中させてしまうというインピーダンスマッチングずれの問題もあります。 プラントエンジニアの業務としては、これら問題を外から磁力を与えることで溶けた鉄を混ぜて熱の集中を分散させる方法。鉄くずの抵抗急変を安定化するような、さまざまな鉄くずの最適配合を見つけるシステム、または、鉄くずの抵抗急変に対し瞬時に対応できる電力制御システムを構築するなどの仕事があります。
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