就職する企業を選ぶとき、もしくは将来性のある仕事を見極めるとき、今後、業界がどのように再編し、仕事の職種がどのように変革してゆくか予想することが必要になってゆきます。これは筆者の個人的な考えですが、遠く先の未来を想定して今仕事をするのと、現状やその少し先の未来のみに囚われて仕事するのでは、突然訪れる変革に対する対応力が変わってきます。たとえその予想が間違っていてもです。技術者として働き、技能を磨く場合、その知識や技能の習得には、それ相応の時間が必要となります。もし、乗る船を間違えて、せっかく手にした得た能力が無駄になってしまったり、たとえ無駄になっていなくとも、時代の変革で最も良いとされる使い道が変わったとき、柔軟に対応できなくなってしまうことがないように、皆さんも一緒に考えてみてください。
遠い未来を予想するに至っては、お金を稼ぐ本質的な意味、現在の状況、現在状況に至った過去の変革、を考察したうえで考えてみてください。
まず、お金を稼ぐ本質的な意味とは何でしょうか?「皆さんが物を買うとき払っているお金は、お金ではなく、お金を得るために費やした自分の時間を払っている」とホセ・ムヒカという大統領が言っていました。つまり、お金を稼ぐとは、自分の人生の時間を他人に必要とされる価値にして与える代わりに、相手の人生の時間をもらうことです。
では、たくさんのお金を稼ぐために必要なことは何でしょう?
師匠と弟子の関係を考えてください。弟子が欲しがる誰にでもできない技術や知識を身に着けている師匠は、弟子に自分の時間を割いて技術を与える代わりに、弟子には師匠の使った以上の時間、師匠の身の回りの世話をしてもらいます。お金を多く稼ぐためには、必要される価値を人より短い時間で生み出せる能力が必要だということです。
現在の業界状況にこの関係を当てはめて考えてみましょう、日本が今、師匠として世界に立てている業界は、以下の業界の中で皆さんはどの業界を思い浮かべますか?
運送機械(自動車、航空機、鉄道車両、造船)、
製造機械(建設・農業機械、工作機械・産業ロボット、プラント設備)、
エレクトロニクス機器(家電、医療機器、産業電機、電子部品、電子部品材料)、
情報通信(携帯・インターネット、業務ITサービス・eコマーズ)、
素材(化学、繊維、石油、鉄鋼・非鉄金属)
エネルギー(電力・ガス)
食品(加工食品・飲料・農林水産業)
建設(ゼネコン・サブコン)
生活用品(生活必需品、嗜好品)
運輸(航空、鉄道、海運)
運送機械では自動車、製造機械では建設・農業機械と工作機械・産業ロボット、エレクトロニクス機器では電子部品と電子部品材料、素材では繊維(炭素繊維のみ)、こんなところを思い浮かべるのではないでしょうか?日本の発展においてなぜこのような業界が世界で実力を発揮し、日本を支える業界立てたのか歴史をたどって考えてみましょう。
素材業界である石油、鉄鋼、化学が成長
⇒政府の失業防止対策として多数の事業からなる自動車が普及
⇒エレクトロニクス機器の普及によりエネルギー事業が拡大
⇒自動車の普及に伴い国土インフラが発達し建設業が活況
⇒エレクトロニクス機器の小型化発展により自動車が電子化・コンパクト化、情報通信事業とインターネット事業が普及
⇒現在:海外自動車需要の活況に支えられ、エレクトロニクス機器、自動車の製造機械も活況に
この流れでわかることは、今日本が有利となっていられている企業は、自動車の持続的な成長ができたからで、エレクトロニクス分野も製造機械も、その恩恵で支えられ好機の状況にいるということです。ではなぜ、携帯電話などの自動車以外の電化製品をはじめ、鉄鋼、化学、産業電機、造船、医療機器は世界でも技術力では有利な立場にあるはずなのに、世界で実力を自動車しか発揮できなかったのでしょうか?。
前述で記載した、必要される価値を人より短い時間で生み出せる能力という観点で、考えてください。
自動車の成長背景は、
- 国内に一定のユーザーがあり、輸出する諸外国も自動車ユーザーの使用環境が大きく変わらず、そのニーズを国内でとらえられる状況化であった。
- 輸出する諸外国は先進国であり、物価は、日本とそれほど変わりなかった。
自動車が単に技術的レベルで他の国に勝ったではなく、ユーザーのニーズ(必要される価値)を得られる環境下で、同じ物価(人より短い時間で生み出せる能力)で成長できたことがわかります。
一方、鉄鋼をはじめ、化学、産業電機、造船、医療機器は諸外国輸出先の大半が発展途上国であり、国内とニーズが違いすぎたのです。諸外国は高級鋼・高機能化学製品・高効率モータの技術ではなく、日本国内の物価では採算のとりにくい汎用品を安く大量に必要としていたのです。海外で現地生産するように同じ物価の市場で製造しなくては、利益をとれない状況だったのですが、日本人の国内志向が強かったのも影響したと思われます。
では、このような流れを踏まえて、今後はどのように業界が変わっていくでしょうか?
まず、直近の10年ではどうか?
物価についてですが、途上国の発展は近年著しく、最短では、この先5年程度で日本と物価が同じ程度になる国が多数できると思います。ただし、40~50代多い企業は、賃金の適正評価、大所帯にならないための組織体系づくりが、十分にできていなければ、価格競争には勝てません。生産のスリム化ができる体制をどこまで構築しているかが重要になります。
技術面の発展を考えるのならば日本が今後、諸外国に対しニーズの高い革新的な技術を開発し続けられるかはわかりません、東レのように炭素繊維といったニーズの高い新素材開発ができることは、各企業、願ってはいても確証を持つことはできないでしょう。なので、ユーザーのニーズに的確に対応できるような業界の体系になってゆくことが予想されます。
現在もその途中ではありますが、例えば、プラント設備を作る業界は素材・エネルギーを作る業界に納めます。こうした場合、購入する側の立場が強く、規模さえ勝っていれば、素材・エネルギーを作る業界の企業がプラント設備を作る業界を買収し、商品をよりユーザのニーズに合わせて改良し、同様のユーザーを知る諸外国にプラント設備を販売する業界体系に変化してゆきます。
よほど諸外国がマネしにくい産業でないかぎり、よりニーズのわかる川下の業界が川上の業界を買収し、企業規模を拡大し製品を使いやすく改良して販売する。といった事業構造に近づいてゆくと考えています。これは発展途上国の成長に伴い物価の水準が先進国に近づくにつれて、企業規模を拡大しても採算がとれる仕組みになり、動きが加速してゆくと考えられます。
直近10年を見据えて企業を選ぶ際は、これらの背景を踏まえ、業界によらず、生産のスリム化ができる体制にいて、規模(シェア)が大きく、資金力があり、ユーザーニーズを吸い上げやすい(川下に近い)環境下にある企業が理想だと筆者は考えます。
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